[tuneviolin] 弦楽器の調弦(チューニング)のこと
弦楽器の調弦にまつわるごく基礎的な情報をメモしておきます。
バイオリン・ビオラ・チェロ(ひっくるめてヴァイオリン属と呼びます)の調弦と平均律/チューナーとは、残念ながら合致しません。これは純粋な科学的な理由によります。
- a) ヴァイオリン属は5度調弦です。(ちなみにコントラバスは違う)
- b) 5度調弦を完全にハモるように5度で取っていくと、少しずつ平均律とずれていきます。(ハモる5度は平均律より幅が広い)
- c) 5度調弦は (原則)、周波数が 2/3倍, 1.5倍という有理数です。ところが、平均律は無理数です。平均律にはルートとかの無理数が出てきます。有理数 vs無理数だと、どうしてもハモりません。(割り算しても、きれいに割り切れません)
- d) 例えば、チューナーを活用してヴァイオリン調弦を E, A, D, G をメーター真ん中ぴったりに合わせると、音程が微妙に悪い、気持ちの悪いものが出来上がります。
バイオリン属の弦の振動周波数と出ていく音の周波数は微妙に異なります。
- a) 構造上、弦の振動周波数と、駒の振動周波数と、そしてf字孔から出ていく振動周波数とが微妙に異なります。(裏板からの音も考えると、もっと難しい)
- b) 例えば、チューナークリップで、ヴァイオリンのスクロールのところでクリップしたとしても、出ていく音の音程とは微妙に異なります。
完全5度が平均律からずれてしまうことの補正について。
- a) きれいにハモるように調弦していくと、ヴァイオリンなら G線、ビオラ・チェロだと C 線が 目立つほど低い音程になります。
- b) そのため、ソロ曲じゃない限り、これを、どこかで音程の幅を調整する必要があります。(ソロ曲でも調整する場合あり)
- c) 大抵の人は、第2線と第3線の間で調整するか、第3線と第4線の間で調整します。(そこの音程の幅を狭く取る)
- d) オーケストラで ビオラとチェロに 重要なC線解放が出てくる曲の場合、舞台袖チューニングで C線を合わせることがあるのはこれが主たる理由です。
倍音が豊かな場合、音が少し高めに聞こえることについて。
- a) ヴァイオリン属の場合、一般的に他の楽器より倍音の種類が豊富で、また倍音が大きいです。(材質がベニアの楽器にスチール弦を張れば、かなり倍音を減らせます) => 大抵の場合、倍音が多い音色のほうが好まれます。
- b) 倍音が多い場合、人間には音程が少し高く聞こえます。
- c) ヴァイオリン属の倍音構成は、楽器ごと・弓ごとに各々個性がありそして異なります。
- d) 実音的には同じ音程であっても、聴いた感じ音程が異なる原因の一つはこれだと思います。
ここまでは、一般常識でしたが、ここからは、私の考えが入っています。
湿度が高いと倍音が減りがちです。
- a) 大抵の場合、ヴァイオリン属は湿度が高いと、どうしても倍音が減ります。
- b) 倍音が減ると、右手に力が入ったり、松脂を塗りすぎたり、うまくいかないことがあります。そして弓の毛や弦が消耗していきます。
- c) そういった理由により、梅雨の時期などは、どうしても弓の毛の性能を消耗しがちです。
コンマスがオーボエから音を取るときのことの工夫について。
- a) オーボエをはじめとする管楽器とヴァイオリンとは、倍音の出具合がかなり異なります。
- b) かといって、オーボエの実音とバイオリンの実音を単純にそろえてもうまくいきません。
- c) ヴァイオリンから出てくる聞こえた響でチューニングを取るのは最悪です。とはいえ、倍音付きでオーボエと合わせると、低めの実音になってしまいます。
- d) オーボエの音程から、弦楽器全体のサウンド感のためのベストな A を導出するのがコンマスの仕事の一つです。
- e) Aの音程を取るとともに、出てくる倍音配列も意識して調整しています。コンマスのA線の音色が、弦楽器の音色に影響してしまうためです。まじでオケという組織のサウンドが変わります。
- f) 場合によっては、曲調によって倍音の量を調整します。(しかし私はあまりこれは使わなかったし苦手でもある)
- g) おまけ:Aを配るときに、チェロには少し高めのAを、バイオリン側には それほどでもない A を配ります。弓圧で音程を変えられます。これは、チェロやビオラのA線がはじっこにあって、5度の都合から本当にAをぴったりに合わせると、チェロ・ビオラの音程が結果的に少し低くなってしまうことを回避するためです。C線で平均律とのずれを調整する人だとすると、Aがあっていても DとG線とが低めになってしまうこともあります。
- h) 湿気が高いとき(特に湿度が上がる方向性のとき)には、弓の毛の消耗を最小限に防ぐために、ほんの少しいつもよりAを高めに取ります。倍音の少なさを、弦の張力アップにより補正することとのバランスも気にしています。
- i) 上級な弦楽器奏者は、そういう工夫をコンマスがやっていることを理解しているので、その前提を考慮して自分のチューニングをする技術を持っています。
Last modified: $Date: 2018-07-16 $